鶯谷という街のなりたち
鶯谷という街をご存知でしょうか?
実は鶯谷という地名は既に現存しておらず、谷の名前として残っているのみだそうです。
そんな、山手線と京浜東北線が乗り入れる鶯谷駅の東側は、一大ラブホテル群が軒を連ねています。
山手線という立地には正直、似つかわしくない異常な数のラブホテル
歌舞伎町とも円山町とも様相が違う
すっきり、こじんまりとした駅を降りるとうっすら淀んだフィルターがかかったような雰囲気があって、それが良いか悪いかはよくわかりませんが、これから情事に耽る人にはちょうどいい不透明さな気がします。
おそらくたくさんの、色々な事情、色々な人たちが集ったこの街
そんな異様な鶯谷に興味が湧いたので、少し前から通うようになりました。
そもそもどうして鶯谷にはこんなにラブホテルがあるのか?
元々は「連れ込み宿」があったそうですが戦後の公娼制度廃止により、多くの売春宿が連れ込み宿に姿を変えたそうです。
それらがラブホテル群の原型となったそうで、それが象徴するように、鶯谷のラブホテルは一様に「昭和の遺産」という色がとても濃く残っていました。
鶯谷を覆う不透明な雰囲気は、アナログな昭和という時代の残り香でもあるのかもしれない、と
現代と違い全てがクリアにならない「不確かさ」に惹かれたのだと思います
参考記事 : 鶯谷、円山町、高速のインター。ラブホテルはなぜ密集しているのか|エキサイトニュース
いざ、ラブホテルへ
今回行ってみたのは鶯谷駅北口から徒歩3分程度の HOTEL STATION本店 でした
鶯谷は意外と人が多く、普通にカップルが歩いているので入り口が撮影できませんでしたが、門構えは今風なデザインとなっていました。
受付のお姉様はざっくばらんで気さくな方
今風のパネルで部屋を選ぶのですが、パネルを使っていても結局、支払いは受付、鍵の受け渡しも受付、という「ちょっと意味不明なそれ」が鶯谷、レトロラブホ好きにはたまらないのです。
他のラブホテルだとパネルで選んで支払いも備え付けの精算機で終わらせ、鍵の受け渡しは受付で、ということが多いのですが、正直パネルだけ、というのは意味をなさないとは思います。
結局口頭で聞かれたので…
でも、それが良いのです
それに、空室、使用中など、パネルに表示されているという視覚的な風景が面白くて、「これ何かに似てるな」と思ったら「エレクトリカルパレードみたいな雰囲気」または「これからエレクトリカルパレードが始まる自分のテンション」かもしれない、と
価格は休憩(夜3h)で5500円
我々の到着が少し遅く、宿泊の時間に食い込みそうだと受付のお姉様が教えてくれて「それなら500円足して宿泊にすればいつでも出られますよ」と教えてくださったのでそうしました。
ちなみに宿泊はしていません。
受付の隣のスタンドに、初めて見る雑誌が
興味深すぎて持ち帰って眺めています
筆者はデザイナーでもあるので「こうやって編集してるんだー」という視点でも楽しめます。
それと俗に言う「パネマジ」のような写真加工の方法など、プロから見たらある程度どうやっているかはわかるので興味深く眺めました。
筆者と同い年と書いてあるが、どう見ても+10歳はお姉さんだな、、、、とか
この顔写真、多分元々の写真は使えないかなにかで大幅に何かを変えてあるな、、、とか
ちょっとここが不自然、、、とか
きっともう毎月?フォーマットは決まっていて、そこに嵌め込んでるだけなのかもなあ、など編集の視点から見てもとても面白かったです。
ちなみに中身は風俗情報誌なので鶯谷周辺のデリヘルが主な掲載でした。
こういったものが鶯谷に来たなあ、レトロラブホに来たなあという気持ちにさせてくれます。
ちなみに鶯谷で一人で歩いている女性は全員「デリヘル嬢に見える」という謎の思い込みが筆者にはあり、それを「鶯谷マジック」と呼んでいます。
筆者も一人で歩いたことがあるので、きっとそう思われているんだろうな、と。
あの街で一人で歩いているだけで「なんか事情がある」と勝手に思ってしまうのです。
これぞ昭和レトロなホテル
エレベーターで上に上がると、部屋に着くまで少し歩きました
ラブホテルって窓がついてないことがほとんどなので、部屋に辿りつくまでぐるぐる歩いているような感覚になって、まるで雪山で道標を見失ったような感覚に陥ります。
正直この瞬間はちゃんと怖いです。
部屋の窓も基本は開けないことを想定されているからか、閉所が苦手な筆者は「窓が開かないことは忘れよう」と、逆に意識してしまうほど言い聞かせています。
部屋自体は年季の入った手狭な部屋でしたが、清掃が行き届いていたので2時間前後の滞在ならば全く気になりませんでした。
古い建物は見た目が綺麗でも水場のにおいが気になることが多いですが、今回はそれもなく、トイレもお風呂も綺麗に清掃してあり、下水のにおいもしませんでした。
ひとつだけ難を言えば、お風呂場が狭かったこと
「家単位」で考えるとしっかりとした広さはあるのですが、ラブホテルのお風呂って大きいところが多いのでそれが残念でした。
割と普通のユニットバスだったので「家感」を感じてしまう
一瞬、素に戻りがち
懐かしのコントロールパネル
ベッドは普通の、ありふれたベッドですが、レトロラブホテルにありがちな「コントロールパネル」がありました
筆者はこれがとても好きで、最近だとシティホテルでもあまり見かけなくなっているので発見するとちょっと得をした気持ちになります。
けっこう場所をとるし、昨今のミニマリズム、シンプル化のような風潮から言うと、正直、邪魔なのですが、その無駄すらも美しさを感じると言うか、「昔はこれは富や余裕の象徴だったのかもしれない」と想いを馳せることが楽しいのです。
いつかは不倫の男女が、
いつかは行きずりの二人が、
いつかは駆け落ちの二人で、
いつかは、誰かが望まぬ場所だったこの部屋
ここにたくさんの人生の一瞬が交わっていて、しかもそれがセックスという超個人的な行為の場所であるという秘匿性、そして共犯であるという感覚。
それは歴史を重ねたラブホテルでしか感じられないのだと思うと、とても貴重な時間を体験しているといつも思うのです。
四角でも丸でもない、三角すい
ベッドの上にあったのは三角すいの照明
個人的には昭和と平成初期の象徴のようなオブジェで、昨今、このフォルムを見かけることは少ないです
やはりミニマリズムやシンプル化に、三角すいは不要なのです。
単純に場所をとる
デッドスペースができやすい
そもそも製造する時のことから考えてみるとやはり無駄が多い
そう思うとこれもコントロールパネルと一緒で「余裕の象徴」であるのかもしれないと思いました
このコラムを書きながら、筆者は「余裕」を求めているのかもしれない、昭和にはそれが感じられるから好きなのかもしれない、とわかってきました
意図の無い円
壁紙の円はフリーハンドのような、正円のような、不穏な円
どう考えてもそこに意図や意思があるようには思えない、円
筆者はデザインを含めクリエイターでもあるので視覚要素から物事を見出します。
本来ならこの壁紙も無地でいいと思うんです、安いだろうし。
でも、敢えて柄がある壁紙をチョイスするというオーナー?の意思や、この壁紙をデザインした人にも想いを馳せます。
「一体どういう意図で?」
と思いますが、全てに意味があるわけでもないですし、「ちょっと値段上がってもなんか柄がある方がいいな」というのもやはり、「余裕の象徴」と呼べるのだと思います。
実家にあった電話と「えんじ色」
昭和生まれの筆者の実家に、確かにあったこれ系統の電話
そしてレトロラブホのイメージカラーと言っても過言ではない「えんじ色」
全体的に丸いフォルム、丸っこいデザイン
特に子供の頃に家に似たような電話があったことからお風呂場と一緒で一瞬、素に戻る、はありました。
こういう場所はやはり非日常を求めているので、筆者のような「どこか実家とかぶる」は面白くもありますが、賢者タイムを誘発されるもあり…
諸刃の剣ですね
まとめ
鶯谷のラブホテル、 HOTEL SATION本館のルポでした
駅前東側の一体にあるラブホテル群の中を歩くと、四方が全てラブホテルです。
夜に行くとこうこうとネオンが光り、
昼に行くと底知れぬ背徳感に塗りたくられます
良い悪いということではなく、そこに魅力があり、好きだという人は少なくないはず
気になる人は一度、足を運んでみてください
道ゆくいろんな男女を眺めて、ホテルの中を眺めて、そこで過ごす時間に自分は何を感じるのか
大きくはない区画の中にひしめくラブホテルには積み重ねた数々のドラマがあって、もしかしてそれは悲劇や切ないテーマが多かったかもしれない
全てが整理されクリアになっている令和の今だからこそ、全てが不透明だからこそ楽しめるものがあると思います